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紙媒体の英訳底本

追加情報です。このサイトの英訳底本の紙媒体のコピーを収めた資料を見つけました。下記サイトからPDF形式で取得できます。

千葉 宣一 (2004). 慶応・明治・大正期に於ける『百人一首』の英語訳. 北海学園大学人文論集 26・27, 別冊, pp. 1-737.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004028289/

この資料には、Clay MacCauleyだけでなく他のより古い複数の翻訳が含まれいます。中には挿絵のある版もあり、眺めるだけでも楽しめる資料となっています。関心のある方はぜひご覧下さい。

MacCauley(1917)標題 MacCauley(1917)奥付

47. 八重むぐら

今日の歌は「47. 八重むぐら」です。

【歌】

To the dim cottage
Overgrown with thick-leaved vines
In its loneliness
Comes the dreary autumn time:
But there no people come.
(The Monk Egyo)

八重むぐら しげれる宿の さびしきに
人こそ見えね 秋は来にけり
(恵慶法師)

【ひとこと】

「葉の茂った草で覆われた薄暗い小屋に、わびしい秋の時が来る。しかし、そこを訪れる人はいない。」英訳はこのような内容です。

元の歌で、「八重むぐら」の「八重」は、「幾重にも」というほどの意味です。英訳では「thick-leaved」と訳出しています。はじめの2句は屋敷の寂しげな様子を描写しています。

第2句から第3句「宿のさびしきに」は、「の」を同格、「さびしき」を形容詞の連体形と解釈すれば、「さびしい宿に」の意味になります。「の」を主格、「に」を接続助詞として、「宿が寂しいので」とする説もあります。

第4句「人こそ見えね」は、係結びの表現です。「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形です。

『拾遺集』の詞書によれば、この歌は当時の川原院の情景を詠んだものであるそうです。川原院は、河原左大臣こと源融(14. みちのくの)の豪華な邸宅でした。彼の死後は荒れ果ててしまい、恵慶の頃には風流人の集う場所となっていたようです。

時代の流れと秋の到来が、ひとつの歌に詠み込まれています。

英語の「dreary」は「わびしい」の意味です。

44. あふことの

今日の歌は「44. あふことの」です。

【歌】

If it should happen
That we never met again,
I would not complain;
And I doubt that she or I
Would feel that we were left alone.
(Fujiwara no Asatada)

あふことの たえてしなくば なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
(中納言朝忠)

【ひとこと】

「(再びあなたと)会うことが決してないのであれば、かえって相手や自分を恨むことはないだろうに。」元の歌は一般的にこのように解釈されています。

元の歌は、「...なくば、...まし」という、反実仮想の表現をとっています。

第2句の「たえてしなくば」の「し」は間投助詞です。第3句の「なかなか(中々)に」は、「かえって、なまじっか」の意味です。

この歌は歌合せで作られたものであるとのことです。

なお、第2句の「たえてしなくば」は、テキストによっては「たえてしなくは」(最後が清音)となっています。

42. ちぎりきな

今日の歌は「42. ちぎりきな」です。

【歌】

Our sleeves were wet with tears
As pledges that our love--
Will last until
Over Sue's Mount of Pines
Ocean waves are breaking.
(Kiyohara no Motosuke)

ちぎりきな かたみに袖を しぼりつつ
末の松山 波こさじとは
(清原元輔)

【ひとこと】

「お互いの袖を涙で濡らした。末の松山を波が越えないように、私たちの恋は終わらないのだと誓って。」英語はこのような内容です。

元の歌で、第1句「ちぎりきな」の「き」は過去を示しています。「な」は感動を示す終助詞です。第2句の「かたみに」は「互いに」の意味です。第5句「波こさじとは」の「じ」は打消推量です。

「末の松山」を波が越すことがないように、互いの心が変わることは決してないと誓い合ったのにと、相手に対して訴えかけています。

この歌は、心変わりした女に対して男が詠んだ歌です。

英語の「pledge」は「誓う」の意味です。

43. あひみての

今日の歌は「43. あひみての」です。

【歌】

I have met my love.
When I compare this present
With feelings of the past,
My passion is now as if
I have never loved before.
(Fujiwara no Atsutada)

あひみての のちの心に くらぶれば
昔は物を 思はざりけり
(権中納言敦忠)

【ひとこと】

「恋する人と会った。今のこの気持ちを以前と比べれば、今の情熱は、以前は恋などしたことがなかったかのようなものだ。」英語の内容はこのようなところでしょうか。

日本語での物思いが、英語では「my passion」とより前向きに訳されています。

『拾遺抄』によれば、後朝の歌であるとのことです。女と別れた朝に相手に贈った歌です。

46. 由良のとを

今日の歌は「46. 由良のとを」です。

【歌】

Like a mariner
Sailing over Yura's strait
With his rudder gone:
Where, over the deep of love,
The end lies, I do not know.
(Sone no Yoshitada)

由良のとを 渡る舟人 かぢをたえ
ゆくへも知らぬ 恋の道かな
(曽禰好忠)

【ひとこと】

「由良(ゆら)の海峡を漕ぐ船乗りが舵を失ったように、恋の深みの先のどこに終着があるのか、私には分からない。」英語はこのような意味です。

元の歌の第1句目「由良のと」の「と」は、海峡、瀬戸、河口などの意味です。

第3句の「かぢ」は、櫂(かい)や櫓(ろ)など、船を操作する道具の総称です。「かぢを(緒)」は「かぢ」をつなぐ紐であると解釈できます。

第3句までは序詞であり、第4句の「ゆくへも知らぬ」につながっていきます。他の歌では音でつながる序詞も多く見られますが、この歌では意味でつながっています。

行く末の不安を詠んだ恋の歌です。

英語の「mariner」は「水夫」、「strait」は「海峡」、「rudder」は「舵(かじ)」の意味です。

48. 風をいたみ

今日の歌は「48. 風をいたみ」です。

【歌】

Like a driven wave,
Dashed by fierce winds on a rock,
So am I: alone
And crushed upon the shore,
Remembering what has been.
(Minamoto no Shigeyuki)

風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
くだけて物を 思ふころかな
(源重之)


【ひとこと】

「風が激しいので、岩に打ち付ける波が砕ける。そのように、私だけが(相手のために)心が砕けてもの思いに沈むこのこの頃であることだ。」元の歌は、このような意味です。

元の歌のはじめの2句は序詞です。相手を岩に、自分を波に例えています。男の失恋の歌です。

第1句の「いたみ」の「いた(甚)し」は、程度がはなはだしい様子を示します。ちなみに、現代語の「おめでとう」は「めでたし」、つまり「愛(め)で甚(いた)し」に由来しています。

英訳の表現も面白いと思います。元の歌の「物を思ふころかな」を、英訳では「remembering what has been」と分詞構文で表現して、余韻を出しています。

49. みかきもり

今日の歌は「49. みかきもり」です。

【歌】

Like the guard's fires
Kept at the imperial gateway--
Burning through the night,
Dull in ashes through the day--
Is the love aglow in me.
(Onakatomi no Yoshinobu)

みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえて
昼は消えつつ 物をこそ思へ
(大中臣能宣朝臣)

【ひとこと】

「宮中の門の衛兵の焚き火のように、夜通し燃え続け、昼には灰にくすぶるのは、私の中で燃える恋である。」英語はこのような意味です。

元の歌のはじめの2句は序詞です。第1句の「みかきもり(御垣守)」は、宮中の門を警護する兵士のことです。

第2句の「衛士(ゑじ)」は、地方から集められた兵士のことです。

昼と夜の様子を対比させて詠んだ恋の歌です。

英語の「aglow」は、「燃えて」とか「輝いて」の意味です。

78. 淡路島

今日の歌は「78. 淡路島」です。

【歌】

Guard of Suma Gate,
From your sleep, how many nights
Have you awakened
At the cries of sanderlings,
Flying from Awaji Island?
(Minamoto no Kanemasa)

淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に
幾夜ねざめぬ 須磨の関守
(源兼昌)

【ひとこと】

「須磨の関の番人よ、お前は淡路島から飛ぶ千鳥の鳴き声を聞いて、どれだけの夜、眠りから覚めたのだろうか。」英訳はこのような意味です。

須磨の関の光景を詠んだ歌です。題詠とのことです。

千鳥は歌では冬の鳥として詠まれ、その鳴き声は連れを求める声であると考えられていました。

元の歌の冒頭の「淡路島かよふ千鳥」という表現は、「淡路島に通って行く千鳥」なのか「淡路島から通って来る千鳥」なのか判断が付きません。英訳では後者の解釈を採用しています。

元の歌の第4句「幾夜ねざ(寝覚)めぬ」の「ぬ」は完了の助動詞の終止形です。この主語は「須磨の関」であり、倒置文となっています。この部分を英訳では、「you」を使った疑問文として効果を出しています。

元の歌では「須磨の関守」は最後に来ます。これに対して英訳では、「guard of Suma Gate」がはじめに登場します。自分が訳すならどうするかを考えながら鑑賞すると、こうした表現の変化を楽しむことができると思います。